追加された妄想オヤジ

唐突だが、私は昨晩、突然思い出したことがあった。
それが気になって、昨晩は、とてもよく眠れた。

それは、得意先の神田のイベント会社にいる中村獅童氏似の担当者のことだった。

イベント会社の中村獅童氏似が、芸能人でもないのに、6月半ばにハワイで結婚式を挙げた。
お土産に、赤ワインをいただいた。

ありがとうございます。

しかし、これだけは聞いておきたい、と私は獅童氏似に詰め寄った。

3年くらい前ですけど、僕には4年間同棲している彼女がいると言っていたのを、昨晩、スパムの混ぜご飯を食っているときに、突然、思い出したんですけど、まさか二股だったんですか。

「いつか、それ、聞かれると思いました」と、獅童氏似は神妙な面持ちで、やや下を向き加減に答えた。
つまり、二股を認めるということですね、と私はゲスな芸能レポーターになった。

だが、「はい」と過ちを素直に認めると思った獅童氏似は、軽く頭を下げて「あれ、嘘なんです。見栄を張りました。だって30過ぎの男が、彼女の一人もいないなんて、みっともないじゃないですか。嘘をつきました。ゴメンナサイ」と不祥事を働いた政治家のように、心のこもっていない謝罪をした。

「あ、でも、同棲はしていましたよ。相手は妹ですけど」
まるで浮気がバレた政治家のような薄っぺらな嘘をつきますね。

「いや、本当ですから。6年前、秋田の大学を卒業した妹が東京の会社に就職したんです。でも、親が妹に一人暮らしはさせたくないから、おまえが引き取れって言われて2Kのアパートだったので、一部屋ずつを使って暮らしていたんです」

しかし、3年前は、こちらが聞きもしないのに、随分リアルな同棲生活を語っていたような気がしますけど、ホントに本当ですか。
(話に、いまひとつ信憑性がないような)

人様の結婚など、本当は関心がないのだが、二股はよろしくない。
モラルに反する。

しつこいようだが、ホントに本当ですか、と顔を覗き込んだ。

すると、突然、獅童氏似の目が明るくなった。
そして、「そうだ、証拠を見せましょう」と言って、スマートフォンを取り出した。

懸命な顔で、指を滑らしたのち、私にある画像を見せた。
「これは、アパートの部屋で一緒に撮った妹の写真です。顔をよく覚えておいてください」

覚えた。
美人という概念からはストライクゾーンをやや外れていたが、政治家には絶対になれないような人のよさそうな顔をしていた。

さらに、指をすべらす獅童氏似。
「ほら、これが結婚式で撮った画像です。俺の隣にいるのが嫁さんで、その隣が妹です。アパートにいた女と一緒でしょ。だから、二股ではないんです、妹なんですから!」

画像をよく見ると、奥さんは、美人という概念からするとインコース低めギリギリの人だった。
幸せだから、そう見えるのかもしれない。
化粧や衣装、ハワイという盛られた部分を取ったら、うーーーーーん。

まあ、しかし、人様の奥様だから、許してあげましょうか。

「ああ、よかった」と肩の力を抜いた獅童氏似。
幸せボケの笑顔で、白い歯を見せた。
それを見て、人の幸せそうな笑顔というのもいいものだな、と思った。

(もう俺には、こんな笑顔は作れない、という寂しさも感じたが)

 
「ところで、Mさんには妹さんはいないんですか」と獅童氏似が、笑顔のまま聞いてきた。

いますよ。
随分、年の離れた妹ですが・・・・・。
昔、モデルをやっていましてね。

「え、モデルですか。スゴいじゃないですか! Mさんが背が高いから、妹さんも高いんでしょうね」

はい。170センチ近くあります。
そのあと、モデルから女優になりまして・・・・・。

「え? 本当に? なんで、教えてくれなかったんですか。テレビドラマとか出てますか?」

はい、最初はギャルの役が多かったんですが、清楚な役に変えてから人気が出ました。
CMにも出ています。

「???」

昨年は、「逃げ恥」というドラマが、大ヒットいたしまして・・・・・。

 
そこまで言ったとき、突然、獅童氏似が、両手で机の上に散らばった資料をまとめながら、「この妄想オヤジ」とつぶやいた。
そして、「はい、この資料を持って帰って、さっさと仕事を始めてください」と、冷たく言い放った。

え? 打ち合わせもしていないのに?

「いいんです。前回と違うのは日にちと画像、地図だけですから。打ち合わせは、不要と判断します」
(おや、怒ったのか?)

そして、獅童氏似は最後に「俺、これからMさんのこと『妄想オヤジ』って呼ぶことにしますから」と、さっきまでの笑顔を見事に消して私を睨んだ。
「仕事よろしく、妄想オヤジさん」

 
 
白髪オヤジ、ガイコツオヤジの次は、「妄想オヤジ」か。

また呼び名が増えて、ありがたいことです。

 

オノ連作 その1

オノから、今年2度目のハガキが来た。

大学時代の同級生オノとは、ハガキで連絡を取り合っていた。
なぜなら、オノは、パソコンもスマートフォンも持っていないからだ。

大学時代は、ほとんど交流がなかったが、オノが9年前に大病したときに、友人経由で連絡が来た。
「マツと話がしたい」
だが、私が電話をかけたとき、オノから「悪いな、俺はいまとても具合が悪いから、またの機会にしてくれ」と言われた。

その2週間後、オノが緊急手術を受けることを知らされた。
病院に駆けつけたが、手術の真っ最中だったので、奥さんに見舞金だけ渡して帰った。

その1年2か月後、オノから「引っ越した」というハガキが来た。
築40年以上経つ、相当に古いアパートだった。
1K、4畳。
錦糸町駅から徒歩20分ほどのところだった。

アパートには、奥さんもお子さんもいなかった。
別れたというのだ。

その理由は、聞いていない。
そして、オノの病名も私は聞いていない。

そんなことを聞いたところで、オノの病気が治るわけがないと思ったからだ。
別れた理由を聞いたとしても、オノの家族が帰ってくるわけでもない。
余計なことは聞かないのが一番いい。

アパートに住んでいた頃、オノの部屋には、生活必需品がほとんどなかった。
冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テレビ、炊飯器、エアコンなど。
あるのは、すべて貰い物だという小さな扇風機、小さな電気ストーブ、電熱器、雪平鍋、毛布、寝袋、そして、私が誕生日に送ったホットカーペットだけだった。

オノの体調は、いまだに万全ではなく、主治医からは「働くのは1日おきくらいにした方がいい」と言われていた。
オノは、近所の総菜屋さんで、週に3~4日、1日5時間働いていた。

その稼ぎだけでは生きていけないので、オノは自治体から保護を受けて暮らしていた。
そのとき、オノが生き甲斐にしていたのは、彼が入院していた病院の小児病棟で絵本の読み聞かせをすることだった。
毎日、図書館に通って、読み聞かせの題材を探すのが、オノの日課になっていた。
それが、オノにとっての当たり前の日常。
とても崇高な日常。

そのオノが、昨年秋、都営住宅に引っ越した。
今年1回目のハガキは、その報告だった。

それを読んだ私は、2月初めに、オノの新居に3号炊きの炊飯器と5キロの米を持って出かけた。
オノは、「こんなこと、やめてくれよ」とは言ったが、素直に受け取ってくれた。

そこで、オノが言った。
「知っているかい? 保護家庭には、都営住宅の抽選で優先倍率があるってことを」とオノが言った。
「俺は、そのおかげで都営住宅に当選したんだよ」

東京押上駅が最寄り駅の都営住宅だった。
1DKのこじんまりした部屋だったが、オノはとても気に入っていた。
「だって、風呂があるんだぜ!」

しかも、何も持たないオノの暮らしを最小限に豊かにするために、自治体が冷蔵庫、カーテン、網戸、ふた口ガスコンロなどを手配してくれたというのだ。
引っ越し代も出してくれたそうだ。
2ドアの冷蔵庫がキッチンに置かれたとき、オノは、感動で身が震えたという。

今までは、オノが働く総菜屋さんで貰う残り物の総菜を、腐らないようにその日のうちにすべて消費していたのが、冷蔵庫のおかげで、朝まで保存できるようになった。
「朝ご飯が、豪華になったんだ。俺は、そこに今、幸せを感じているんだよなぁ」

これからは、エアコンも必要じゃないのか、と私はオノの体調を気にして聞いてみた。
自治体は、エアコンまでは面倒を見てくれなかったようだ。
しかし、エアコンこそ、オノには必要なものだと私は思った。

「いや、総菜屋さんのご主人が、古いエアコンを譲ってくれるというんだ。しかも、ありがたいことに工事費も払ってくれるというんだ。マツ、俺は、幸せ者だよな」
オノが、目を輝かせながら言った。

それは、おまえの働きぶりを評価して、ご主人がしてくれたんだろう。
つまり、それは、おまえの人徳だ。

「病気で、普通の半分程度しか役に立たない俺が、人の善意で、こうして生きていられる。いつか恩返しをしないといけないよな」
そう感激するオノにとって、一つだけ残念なことがあった。
風呂はあるが、シャワーがお湯にならないというのだ。

今までは、週に2回銭湯に通っていた。
そこで、オノは飽きるくらい長く湯に浸かり、シャワーをふんだんに使って体を洗うのが好きだった。
今度は、自宅で、それができる。
オノは、それを楽しみにしていた。

しかし、風呂は浴槽のお湯は沸かせるが、シャワーは水よりも少し温かい程度だという。
ぬるいシャワーは、快適ではない。
だから、ガッカリした。

「図書館のパソコンを借りて調べたんだけどな」とオノ。
「古い都営の風呂はバランス釜と言って、火力が弱いそうなんだ。風呂は焚けるが、シャワーまで温める能力はないらしい。設備会社に勤める人や物知りの人が、そういう風に答えていた。だから、シャワーは諦めるしかない」
ため息をつきながら、オノが言った。

だが、物事を何でも裏側から見るお節介なガイコツが、スマートフォンを取り出した。
これで、東京都住宅供給公社に電話をしてみろ。そして、最近引っ越してきたんですが、風呂釜が故障してシャワーが熱くならないと訴えろ、と私はスマートフォンをオノに持たせた。

オノは、最初は躊躇していたが、私が、東京都住宅供給公社を信じろ、というと首を傾げながら電話をかけた。
そうすると公社は、設備業者に連絡を取ってくれて、業者さんから1時間後に電話が来た。
翌日、様子を見にきてくれるというのだ。

私は、帰ってしまったので、翌日の様子は見ていないが、後日聞くと、業者さんは給湯ユニットを交換し、ユニットと浴槽を繋ぐパイプを交換してくれたのだという。

その報告が、今年2回目のハガキだった。
「風呂は直してもらった。その他に報告したいことがある」という内容だった。
ハガキからは一か月以上経ってしまったが、今週の木曜日に行ってきた。

風呂は、直った。
普通に温かいシャワーが出る、とオノは喜んでいた。

オノが言う。
「インターネットの情報って、何なんだろうな。判で押したように、バランス釜のシャワーがぬるいのは仕方がないって言ってるんだよな。でも、修理してもらったら、普通に使えるじゃないか。マツに言われなかったら、俺も諦めるところだったよ」

情報は情報。

正しいものも間違ったものも含めて情報だ。

その、どれを選ぶかは、自己判断ということだ。
判断する能力がなければ、簡単に騙されることもある。
誰もが騙されることを覚悟する世界。
それが、インターネットだ。

・・・と、偉そうに言ったところで、オノが、真新しい冷蔵庫から、クリアアサヒを取り出して、私の前に置いた。
「ビールを買ったのは、10年ぶりだな」(クリアアサヒはビールじゃないけどな)
総菜屋さんで貰ったと思われる枝豆も付けてくれた。

ありがたく、いただく、と言って一気に半分を飲んだとき、ピンポーン、が聞こえた。

オノの顔を見ると、照れたような、秘密を見つかったような複雑な笑いを浮かべていた。

部屋のガラスのドアを押して入ってきたのは、40歳前後の女性だった。
まず思ったのは、背が高いな、ということだ。
170センチ以上はありそうだ。

クリーム色のスーツ。
そして、身に付いた人慣れした雰囲気。
人を安心させる笑顔。

オノの親類の方かな、と思った。
しかし、その後、オノが頭をかきながら、墨田区押上の空気を切り裂くようなことを言って、私はその空気にスカイツリーまで突き飛ばされた。

「俺、この人と結婚しようと思っているんだ」

えーーーーーーーーーー!?

この続きは、変則的ながら、明日のコチラのブログへと続きます。

スターウォーズと中華思想

昨年の9月から今年の2月末まで韓国に留学していた娘は、現地でお友だちがたくさんできた。

ただ、韓国人は、以前からの友だちはいたが、現地ではなかなかできなかった。
留学先では、7割以上が中国人だった。
群れを好む中国人は、排他的で、自国の人としか話をしない傾向があったという。

そして、クラスには韓国人は一人もいなかったから、話す機会さえなかった。

だから、現地でできた友だちは、台湾人、オーストラリア人、ブルガリア人だった。
しかし、帰国前の懇親会で、同い年の韓国人と親しくなった。
名前をヒョリちゃんと言った。

その子は、10歳くらいの頃から、アイドルグループの嵐が好きで、嵐の歌っている歌詞を理解したいために、日本語を独学で覚えたという。
それは、我が娘も一緒だった。
娘は中学1年のときに、たまたまYouTubeで見た少女時代を好きになり、歌詞を理解したいと思って、独学で韓国語を勉強しはじめた(まだ反韓感情の弱かった時代だ)。

娘が大学3年で韓国に留学したのは、英語習得のためだったが、現地で5か月も暮らしていると、これまでの勉強の蓄積が効いたのか、ネイティブな韓国語を理解できるようになった。

ヒョリちゃんが、お世辞で「発音が韓国人と変わらないね、スゴいね」と褒めてくれた。
そのヒョリちゃんの日本語も相当なレベルだった。
「好き」というエネルギーは、人のスキルを上げるようだ。

 
そのヒョリちゃんが、今週の火曜日に日本にやってきた。
娘に会うためだ。
火曜日の夜にやってきて、金曜の朝に帰った。

ホテルに泊まるつもりだったが、娘が「家に泊まりなよ」と言ったので、我が家に泊まった。
まつげの長い、少女マンガに出てくる脇役のような顔をした子だった(わかりづらい?)。

韓国料理は食べたくないと言ったので、日本料理でおもてなしをした(韓国料理が好きでないらしい)。
肉じゃがやら、湯豆腐、金目鯛のあら汁、カレーうどん、かき揚げ丼など。
「超絶だねえ」という表現で喜んでくれた。金目鯛のあら汁は2杯お代わりをした。

そのとき、話していて驚いたのは、北朝鮮のことだった。
ミサイル開発を進める北朝鮮の報道は、日本でも連日報道されている。
もちろん、韓国でも報道されているが、少なくとも韓国の若者たちは、極端には脅威を感じていないという。

そして、韓米同盟を結ぶアメリカに対しても、アメリカは北朝鮮を攻撃することはないと思っていた。
彼らは同盟国アメリカのことを勉強していて、かつてアメリカ軍が「核保有国」に対して先制攻撃を仕掛けたことがないことを知っているのだ。

そんなことをしたら世界が破滅する。
もし史上最悪の大統領が、そんなことをしようとしたら側近が彼を殺すだろう、などと怖いことを言ったりもした。

相次ぐ弾道ミサイルなどの発射実験から推測すると、北朝鮮の市場経済は、国内を潤すほどのレベルになっていると考えられた。
そして、韓国を含めた各国は、北朝鮮は核を持っていると認識し、最悪の飢饉から抜け出したのではないかと、今の北朝鮮の現実を受け止めていた。

韓国の若者たちが憂慮しているのは、それよりも、若者の高い失業率と硬直化した財閥経済だという。
財閥が支配する経済は、財閥が傾いたら、すぐに国も傾く脆さを持っていた。
「財閥と一緒に韓国が滅びるのは嫌だよ」と、ヒョリちゃんは嘆く。

でもね、とヒョリちゃんが言葉を繋げた。
「一番怖いのは、中国だね」

「日本は、拉致問題を重要視しているから、北朝鮮を『悪の国』だと必要以上に決めつけているけど、世界が脅威に感じているのは、北朝鮮よりも中国だよ」
「南シナ海を支配したら、次は北朝鮮、そして、日本の尖閣諸島がターゲットになるだろうね」
「北朝鮮が中国に支配されたら、もちろん韓国が一番危ないけど、日本も同じくらいに危ないよ。日本の自衛隊は優秀だけど、核は持っていないもんね。そして、核を持っている中国に対して、韓日と同盟国のアメリカが本気で戦争をするわけがないと思うよ」

随分と思い切った意見だ。
反論するところは、あると思うが、反論できるだけの材料を、朝鮮半島情勢に不勉強な私は持っていなかった。

だから、話を違う方向に向けた。

 
中国は、ジョージ・ルーカス監督の「スターウォーズ」に出てくる「帝国」みたいなものだ。
「帝国」は、力と恐怖による「独裁政治」で、銀河の支配地を広げていった。

民主的な選挙で選ばれたわけではない、心を持たない指導者が、心を持たない兵士を育て上げ、人民を殺戮した。
そして、「帝国」において、人民は奴隷同然だった。
名誉あるジェダイたちも、次々に粛正されていった。

ただ、「帝国」の支配は、長くは続かなかった。
帝国内部の権力争いと「共和国」との争いにより、支配力は弱体化していった。
それによって、銀河は、崩れやすいバランスの中で、帝国と共和国との脆い共存関係を築いていた。

なあ、スターウォーズの「帝国」の最初って、今の中国に似ているとは思わないかい?
中国が弱体化するかはわからないけど、少なくとも最初の頃の「帝国」は、中国に似ていると思うんだ。

君たちは「中華思想」って知っているかい?

この宇宙では、中華王朝が、宇宙の中心であり、異民族は中華王朝にひれ伏すだけの存在だという思想のことだ。
つまり、2000年以上前から、中国のトップは、「宇宙の皇帝」になりたいと思っていたんだよ。

だから、スターウォーズを観ると、「中華思想」を思い出して、俺は鳥肌が立つんだよね。
寒気がするんだよね。

 
それに対する、ヒョリちゃんと娘の反応。

「はあ?
うちら、スターウォーズ、よく知らんし」

 
はい、ごもっとも。